只今アコースティック・ギター・フロアにはビンテージ・アイテムを中心に各種スティール・ギターが勢揃い中。スティール・ギターは元々ハワイアン・ミュージック用に考案された楽器で、当初はハワイアン・ギターと呼ばれていましたが、度重なる進化、発展、改良により、ジャンルを問わず幅広く使われるようになりました。現在ではスティール・ギターの呼び名が一般的になっています。近年、J-POPでは高田漣、田村玄一(KIRINJI、LONESOME STRINGS、LITTLE TEMPO)、スタジオ・ミュージシャンの今剛、洋楽ではダニエル・ラノワ、グレッグ・リーズ等が使用しており、若いポップス、ロック・ファンの方にも注目を浴びています。楽器が勢揃いしたこのチャンスにスティール・ギターの歴史を紹介いたしましょう。
ホローネック・ギター
ハワイアン・スタイルと呼ばれる、ギターを横に寝かせ左手でトーンバーを操って演奏するギターの奏法は19世紀末にハワイで始まりましたが、当初は普通のアコースティック・ギターを使用していました。20世紀初頭にアメリカでハワイアン・ミュージックが空前のブームとなり、大勢の聴衆の前で演奏するために楽器自体の音量が求められるようになりました。そこで登場したのが、ワイゼンボーンに代表されるホローネック・ギターです。また同時期、スクエア・ネックと呼ばれる太い角材状のネックを持つギターも登場しました。残念ながらホローネックでは期待したほどの音量は稼げず、間もなく衰退していくことになります。しかしながら、ピックアップが進化しアコースティック楽器のアンプリファイズが容易となった近年、再び脚光を浴びるようになりました。
リゾネーター・ギター
ホローネックのハワイアン・ギターに代わって登場したのはナショナルやドブロで有名なリゾネーター・ギター(リゾフォニック・ギター)です。金属製の反響板を共鳴させることで、ある程度音量とサスティンを増加させることに成功しました。なお、リゾネーターはスパニッチュ・スタイルのギターにも使われ、こちらは主にブルース・ギタリストに好まれるようになり現在に至っています。
エレクトリック・スティール・ギター
そして決定的な発明はリッケンバッカーが開発したエレクトリック・スティール・ギターです。マグネティック・ピックアップの開発によって電気的に音を増幅することに成功しました。マグネティック・ピックアップもまたスパニッシュ・スタイルのギターに採用されるようになり、そこからエレクトリック・ギターの歴史がスタートしたのです。なお、スティール・ギターのエレクトリック化に押され、ホローネックに続いてリゾネーターを用いたスティール・ギターもハワイアンでは衰退していきましたが、アコースティック楽器によるアンサンブルが基本であるブルーグラスに活路を見出しました。 エレクトリック・スティール・ギターは、本家のリッケンバッカーに加え、ナショナル、ギブソン、フェンダーなど各社も手掛けるようになり、ウエスタン・スウィング、カントリー、ブルース、ゴスペルなどハワイアン以外の音楽にも使用されるようになりました。旧来からのハワイアン・ギターのスタイルである膝の上に寝かせて演奏するタイプに加え、スタンドに立てて演奏するタイプも登場しました。前者はラップ・スティールとも呼ばれ、近年ではロック・ギタリストの使用も多くなっています。
ペダル・スティール・ギター
スティール・ギターはオープン・チューニングで演奏するため、コード・ワークに限界がありました。しかしながら、エレクトリック・スティール・ギターは共鳴胴を持つ必要がないため、7弦、8弦、10弦、12弦と弦数を増やしたり、ダブル・ネック、トリプル・ネックとネックを増設したりして、コード・ワークに幅を持たせることが可能になりました。そして、遂にカントリー・ミュージック・シーンにおいて、スティール・ギターの究極形とも言えるペダル・スティール・ギターが誕生しました。足や太ももを使ってペダルやレバーを操作することで、チューニングをリアルタイムに変化させることが可能となったのです。このペダル・スティールは重く難易度が高い楽器ではありますが、カントリー・ミュージックを代表する楽器のひとつとなり、また汎用性の高さからポップスやロックなど幅広い音楽ジャンルで長らく使用されています。
以上、簡単に紹介してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。今や当たり前となっているエレキ・ギターもハワイアン・ギターが原点だったのです。スティール・ギターの歴史がアメリカ本土の音楽に与えた影響がお分かりいただけたでしょう。
それでは、私が過去に作ったラップ・スティール・ギター入門用動画と、ワイゼンボーンに代表されるアコースティック・ラップ・スティールの紹介動画(デモ演奏あり)のリンクをご案内して、このコーナーの最後とさせていただきましょう。